「これまで私は意識の高い、ある意味で特殊な人たちの能力開発のお手伝いをさせていただいてきました。だけど、いまあまりにもうつ病の方やニートと呼ばれる若者が増えてきましたでしょう。私も還暦を迎えますので、これからはそういう方々にブレイントレーニングのノウハウを提供していこうと思っているんです。

結論から言って、マイナス思考の人は、どんなに「プラス思考本」を読んだところでプラス思考にはならないんですね。だからいつまでもプラス思考になれる本が売れるんです。

逆にプラス思考の人がプラス思考本を読むと、ますますプラス思考になる。要するに、マイナス思考もプラス思考も、既に確信になっているんです。

でも、確信に変わる前の「かも」の段階というのがあるんですよ。例えば「無理かも」と思うじゃないですか。それはもう既に脳への問い掛けになっていて、確認して、諦めて、確信になっていく。確信になったものを変えることは非常に困難なんですね。だけど「かも」を変えれば思考も変わってきます。例えば、「うちの女房は怖い」と思っていたとしますね(笑)。だけど「いや、うちの奥さんは怖いだけじゃなくて、かわいいところもあるかも?」とか、「いい人かも?」と(笑)。すべての問い掛けに対して脳は応えて、イメージをつくっていきます。

 

だから、マイナス思考の人は「かも」をうまく利用していこうと。これを私は

「かも理論」と名づけて、これから一般の人たちに広めていこうと考えています。

哲学者・ニーチェがこんな言葉を残していますよ。

「事実などない。あるのは解釈のみだ」

 

実際に奥さんが怖いかどうかは関係ないんですね(笑)。自分の脳がどう解釈したか、です。前に読んだ松下幸之助さんの本の中に、「私は本当に運のいい男だと

1日に20回も言いました」という箇所がありました。私は松下さんの原点はここじゃないかと思います。

だけど、自分は運がいいと彼は解釈したし、また言葉に出すことによって、さらにその思いは強くなった。だから実際にそういう人生を送ったのでしょう。それくらい言葉には強い力があるものです。

ですから、私はよく皆さんに言うんですよ。松下さんが1日20回なら、君たちは

1日100回言わんとダメだよと(笑)。」

西田文郎 サンリ会長 致知』2009年7月号 特集「人生をひらく」より